第五話 時には悪霊とも戦います!

エチオピアの施設でいつものように夜、みんなの手当てを終えて、自分の部屋に戻ろうとしたら停電していた暗い廊下の椅子に誰かが座ってすすり泣いているのがわかりました。

 

どうしたのかな…って思って、話かけてみました。

 

ブルトカンっていって10代後半ぐらいの女の子でした。

(エチオピアに多い名前、前に出てきたブルトカンとはまた別の子です)

 

「どうしたの?どこか痛いのかな?」

「痒いの。痒くてたまんないの」

って、言いました。

 

ブルトカンはすごくかわいらしい笑顔を持っている子で、いつもニコニコ微笑んでいるような子でした。

 

「そっかーちょっと見せてね」

って見てみると、ろうそくの明かりでもわかるほどぶよぶよになってしまったやけどのあとが、胸から足首にかけてありました。

胸が痒くてたまらないって言ってがりがりかいていました。

痒み止めのオイントメントを ぬってあげました。

やけどの跡はかなり時間が経っているようでした。

 

別の夜、患者さんに晩御飯を食べさせてあげていたら、上の階ですごい叫び声がしました。

急いでいってみると、ブルトカンがすごい声を出して、泣き叫んで、暴れていました。

 

私はニコニコしているブルトカンの印象が今まで強く、急いで周りにいた子に何があったか聞きました。

 

「ブルトカン、夜になるとときどきこうなるの」

 

20人ほどがブルトカンを囲んで体を抑えて、鼻の穴ににんにくをいれて、病室に掛けてあった、エチオピア正教で有名な人の絵の額縁でブルトカンの顔をたたきはじめて水を思いっきりかけて、みんなで殴っています。

 

私はただびっくりして

「何してるのー。だめだよー。やめてー。やめてー」

 

ってブルトカンの体をかばうと今度はみんな私の体を無理やり引き離して抑えて、

 

「チャラカ、いいの。大切なことなの。ブルトカンの体には、悪霊が今入っているからたたき出さないといけないの」

 

みんなが真剣に言って、でも

 

「そんなことしたら痛いし、ブルトカン、余計暴れちゃうよ。ただ、あったかいチャイ持ってきて休ませてあげて」

 

「チャラカこれが一番いい方法だからおとなしくしてて」

 

みんなに体を 押さえつけられながらすごく困惑しました。

 

ブルトカンは、昔、突然自分の家にいたときにレイプをされて、その際に、火がたまたまでたのか、火をつけられてしまったのかこのひどいやけども負ってしまったようでした。

 

そのことが原因で、精神状態が不安定で、混乱してしまうことがあるとのことでした。

 

 

こういう現実が悲しくてたまりませんでした。

 

2007年5月1日 原題「悪霊のこと」