第二話 「名前。」

エチオピアの施設で、新しく運ばれてきた30代ぐらいの女性に、

 

「こんにちは。お名前なんですか?」っていつもの感じで聞きました。

少し不思議そうな顔をしていたので、アムハラ語じゃなくて、オロモ語のかたかな?って思って、オロモ語で尋ねてみても、きょとんとしていて

 

あーもしや、シダミンニャ語、グラゲ語、もしやティグリンニャ語かな…。

どの子がしゃべれたかなって思いました。

 

エチオピアには、70以上の言語が存在しています。

アディスではアムハラ語かオロモ語が主でしたが、

ときどき、自分の住んでる一帯で使われている言葉しか通じないかたもいました。

 

どの子に通訳お願いしようかなって、思っていたら、名前答えてくれました。

 

アムハラ語わかるようだったのであれ?と思っていたら、

なにかつぶやいて、そばにいた他の患者さんが、

「ママ、久々にひとから名前きかれたんだって」

て教えてくれました。

 

それから

「ワァーガナシママ、お夕飯だよー」

って、お夕飯のプレート持っていってあげると、すごくうれしそうな顔をして、

 

「ありがとう」って言ったあと何か言ってくれて。

 

でもまた私は、理解できなくて、隣にいた患者さんが、

 

「久々に人から名前呼んでもらえた」

って、言ってるよ、って、教えてくれました。

 

最初に運ばれてきたママを見た時、長い間、路上で過ごされていたんだろうなってわかる格好でした。

 

このときから、現地の言葉を覚えることも大切だけど、まず最初にみんなの名前しっかり覚えようって思って、それから、一人ひとりみんなに名前を聞いてわすれないようにメモして覚えていきました。

 

誰も自分の名前呼んでくれないこと、きっとものすごくさみしいことだろうなっておもいました。

 

2007年5月10日 原題「名前。」